わたし
人が死ぬことは実にあっけない。
生暖かい肌に洗濯ロープをくくりつけ、むすび、お風呂場の頑丈な鉄棒にひっかけて、紐を持っておもいきりジャンプしてぶらさがる。
そうすると、くるしむ声が最初は聞こえるけど、次第におさまり、ぼきぼきと骨が鳴り体がだらんとなる。穴と言う穴から体の中が垂れ落ち、人からモノへと変わった。
ああ、ついにやった。小学校の頃の因縁に決着を付けたんだ。
今目の前にだらしなくあるモノは同級生だったあいみちゃん。
この子はわたしがずうっと小学生の頃にいじめてきた子。
わたしだけじゃない。えりなちゃんもかなちゃんもいじめてきた。
だから別に、私だけが執拗にいじめていたわけじゃない。
いじめる理由はけっこう単純だ。
話し方がとろい、くさい。あいみちゃんはなんだっけ?忘れちゃった。
大人になって久しぶりに会っても全然思うことは変わらなかった。
殺す理由も単純だとおもった。
はなにつくから?色々命令されたから?これも忘れちゃった。
次の日からいつもと同じ日々を過ごした。
心はなぜか晴れ晴れとして、お気に入りのアールグレイティーを自分のためにいれる。
夫も息子も出かけている昼間のこの時間がすごくすき。
読みかけの本でも読もうかしら、テレビでもみてダラダラしようかしら。
それとも本でも書いてみようか。
そんな事を考えているとえりなちゃんからメッセージがとどいた。
"警察に呼ばれた"
え?なんで?ああ、あれか。理解まで数秒かかった。
それくらい、わたしの中であいみちゃんの死ははるかかなたに逝ってしまわれた。
”え〜そうなのか〜〜。長い時間拘束されるからがんばって!”
むかし、仕事をしていたとき、客が気の荒いひとばかりで年に1回同僚が殴られては警察に連れていかれていた。聴取だけで5時間コースだよねたしか。
また数日後、今度はかなちゃんから同じ様に警察と話をしたような連絡がはいった。
内容を聞いて見るとあいみちゃんが殺されたことについて犯人を捜しているんだって。
そこで初めて血の気がひいた。
どうしよう、完全に証拠は消したはずなのに、ばれちゃうかな?
そしたら家族はどうなるんだろう、一人寒い牢獄の中……
いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ
助けて、私は殺ってない。
あいみちゃんがいけないんだ。
だってわたしのことバカにするから。
見下したから。わたしはなんもできないからっておせっかいしたから。
バカにすんなって。ロープを首にまいた。
おもいっきり締め上げた。すこし快感だった。
え?おかしい?狂ってる?
そんなことはない。私は当然の権利を主張したんだ。
日本国民の権利だ。憲法で守られている。
王様や大臣がちゃんと権利を守ってる。
わたしは今、どこにいる?
窓の外に鉄格子。鉄の扉で固く閉ざされ異様に白い場所。
白いベッドの上で横たわり手足がしばられている。
ふと目に飛び込んで来たニュース。
"精神疾患患者がヘルパーを自宅でロープを首に巻き殺人事件発生。逮捕されるも不起訴、措置入院実施。”
あれ、このえいぞう、わたしの家だ。どこの部屋で起きたんだろう。こわいよのなかだ。
おわり